新宿街頭占い師


さすがに20年も勤めた銀行を辞めるとなると色々気になる事も多い、別に悪い事をしたわけでもないし退職を迫られたわけでもないが親戚筋・世間態もある、何より退職した途端に生活の心配をせねばならない、何の蓄えもない身に果たして親子4人が生きられるのか、指し当り住いはどうすればよいか、等々。


実は無鉄砲な話だが、爾後の事は辞めてから考える事だと思っていた。兎も角与えられた目標達成だけは成し遂げる事が肝心だと考え、担当者全体をも鼓舞し顧客回りにも精を出し店の雰囲気作りにも励んだ。


決算日近いその日も他人から見れば多分夢遊病者に見られたのかもしれない。終電近く池袋から新宿駅に降り、京王線に乗り換える途中、何の気なしに左側の小田急百貨店前の占い師と眼が合い、手招きされ無意識の内に引き寄せられらされていた。(当時京王線は路面で小田急デパート前から出発していた)


当時夜になると占い師20−30人が壁際に並んで提灯に灯りをつけて占いをしていたものだ、大体が若い水商売風の女性が主客で「恋い占い」のようなものであった。占には全く興味もなく利用した事もなかったが然しその時は老占い師に吸い寄せられた感じがあった。


立ち止まった自分に開口一番「貴方は今、大変な事をやろうとしているね」、「それはとても危ない事だ」、こちらが一語も言っていないのに図星を指され見透かされて、有無もなく占い師前椅子にへばりこんでしまっていた。


紙に生年月日を書かされ、大きな星型の表を広げ、一角を指差し「今貴方はこの星にいる」「動く時ではない」と宣うのだ。「もう決めた」に、老師は何度も「凶」
を連発、何らかの方法を問う自分に「この難から抜け出すのはほんの一筋しか方策はない、南の方向に住いを変えなさい」世田谷の地図を取り出し下の方向を指差したのだ。