「亀さん」の生涯

okamakoto2006-03-15



不動産仲介で、一つの印象深い「ケース」を記す事とする、当時、「一億総不動産屋時代」、巷ではゴルフ場開発話も飛び交っていた。


勿論「ガセネタ」もあって、確度の低いものだが、ここに引く事例はある意味では「人生の悲喜劇」を見る思いがするものだった。


北関東のU市の業者(仮に「亀さん」とする)は、ある方(代議士秘書)の紹介で知り合った、本人は婿養子で、奥さんは生家で代々の旅館を経営していた。


亀さんは直前に宅建の免許を取って不動産業を営んでいた、「郊外の丘陵地にゴルフ場の適地がある、この物件は是非一緒にやろう」、と言う事だった、


亀さんとは「協力し合って」、何れにしても手数料は折半で行こうとの「口約束」をしていた、亀さんからは、その代り地上げには当社から「人を出してくれ」、が条件だった。


自分は買い手を探す役割で、当初は東京の「T放送不動産部」が有力候補だった、同放送に近い方と一緒に進めていたのだが残念ながらこの方は不調になった。


地上げ協力者に、姉の長男である甥に協力を頼んだ。彼は大学卒業直後で、下宿で毎日「司法試験の勉強中」、「時間もありそうなので」助を求めたのである。


彼は頼みを聞き入れてくれ、何ヶ月間か、亀さんの奥さんの経営する旅館に泊まり込み現地で亀さんの仕事を手伝ってくれていた。


その内、甥から連絡が入った、「どうも買い手が決まりそうだ」と言う。亀さんに「どうなのか」と聞く、最初は曖昧返事だったが「実は契約はした、だが貴方には手数料は払えぬ」、と言う。


確かにその折のT建設は自分が持ち込んだものではなかった、残念ながら他から持ち込まれたものであった。


だから当然ながら無理もあったのだが、時折来社していた新進の弁護士がその事を聞き付け、「訴えよう」と言う。


「成功報酬なら良いよ」と、一切を委ねた、大分日にちが経って忘れてしまった頃に弁護士から連絡が入った、「相手の弁護士から示談を言われている」だった。


経緯を聞いてびっくりした、「亀さんの奥さんが自殺した、本人もこの機に解決したい意向だ」、「奥さん自殺の原因は旦那の水商売女との浮気だ」と。


それまで正直、2―3千万の手数料を独り占めした亀さんを羨ましいと感じていた、せめてその1割でよいからくれたら助かるのに、と。


然し、先方弁護士から呈示された金額は取るに足らないもので、弁護士費用で消えてしまい、甥には払う余地のないものだったが、然し結果的には和解に応じた。


約束事を書面にしなかったのは自分の甘さからであり、無理があったと思ったからである、ただこの事で甥には随分「悪い事をした」の思いが残った。