「軽率さ」の代償


「一局」が終わって、見物人も去って3−4人となった。自分も立ち去ろうとしたら対局相手から「先程の指導料500円払え」と云われ、「いやカネがない」と言う。


うかつな事に、「勝負の後で」気が付いたのだが確かに「指導料五百円也」は卓上に小さな表示で掲出されていたのである。


と、途端に残りの2−3人が自分を取り巻き「払えないのなら一寸裏へ来い」と連れ出され、薄暗いバラックの裏で脅かされる羽目になった。


つい先刻まで、てっきり見物人と思っていたのは実は彼等の一味だったのだ。「家は何処だ、払えないなら家まで付いて行く」とすごまれる。


まさか寮までついてこられても困る、「いや、実は自分は学生なのでアパート住まい、勘弁してくれ」「学生?、じゃー―学生証出せ」となった。


仕方なく学生証を出す、(当時夜間のW大学に行っていた)。「払うまで学生証を預かる」「いやそれは出来ない」と。


何とかその場は「有り金全部を差し出し」勘弁してもらったのだが、上京時に母から注意され、噂にも聞いていた「東京の怖さ」を身をもって実感した一夜であった。



(写真は初冬の東京・日比谷公園紅葉の風景)