S君「帰宅の時」


尚、あの時どうして彼が家に帰ったかを記さねばなるまい、実は彼には告げずに直後密かに家族全員に会い「兎も角何とか一度は彼の希望を入れてやってくれ」と頼んだ。


一方、彼には「この際大人になって、本心は別で良いから、兎に角、皆に頭を下げろ、その気になるまではここに居ろ」と、生意気な忠告をしたものだ。


彼は東京勤務の後、全国各地の放送局の勤務も経験、最後は甲府だった。各地からラジオ(後にはテレビ)で、彼独特の声が聞こえ、瞬間S君と判り懐かしさがこみ上げて来た。


彼は、「語りの間(ま)」の置き方が実に絶妙なのだ、それ故か、講談師「神田甲陽」の名を得て、県の博物館館長の傍ら、この頃は講演・執筆活動にも余念がないらしい。



(東京・とあるお寺の前の春雪)