「社会主義者」と「官僚主義者」


吉野作造と、弟信次夫婦4人主役ながら、脇役も見事、激動の大正・昭和初期の史実を基に、芝居では今の混迷を極めている日本の状況とも「合い鏡」の如く実に考えさせられる作品であった。


共に東大トップの秀才兄弟、兄は民本主義思想家・学者として進歩的指導者で社会的弱者の味方として時の権力と戦い続けている。


一方弟は商工省でエリート官僚として出世し第二次近衛内閣では商工大臣まで勤める(彼の後の商工大臣が岸信介氏=安倍晋三叔父である)


当時の高級官僚は(今もそうだろうが)権力に忠実で、それに「逆らうのを悪」として憎み、思想的に国家主義の権化とも云える考えで貫かれている。


従ってこの兄弟も、血を分けた仲と言いながらも、会うと「議論」から更には「激論」になり「罵倒」し合い、最後まで対立しあう。


兄弟の奥さん同士も姉妹同士で、夫へは内助の功を発揮しつつも姉妹では仲直りさせるべく協力し努力し合っている。


4幕の中では作造殺害を目指す右翼の二人、強盗の夫婦、男と売春婦、温泉宿での会社経営者と中国帰り女性(その場で偶然兄妹再会)等の場面が出てくる。


芝居が終り、最後に「オールスターキャスト」が、揃って挨拶して判ったのだが全出演者が主役4人以外は2人だけだった、てっきり全員で10人以上と思っていたのに、である。


それにしてもイデオロギーあり、唄あり、踊りあり、何よりもこれだけの長いセリフを見事に覚え切って演じた役者には敬服した。


T君電話では「兎に角、二人の姉妹役は美人だよ」だった。それもそうだが、多分彼は「劇の問題意識は君向きだ」と言いたかったに違いない。



(芝居「兄おとうと」のパンフレット)