針の筵(むしろ)


然し、支店長にしてみたら、客先から誘いが来る(最近の言葉で「引く抜く」)と言うのは、私自身に甘さがあったからだ、となったに相違ない。


大抵の銀行員なら、多分何度もそのような経験にあっているに違いないのだが、その時の支店長は頑(かたくな)態度をとり続け、毎日が「針のむしろ」の日々となった。


翌月9月が大事な「前期の決算月」だった、各支店別に預金高の順位を争っていて、それによって支店の業績評価も下される。


先ずここは自分が先頭に立って部員のみならず全店の士気を鼓舞して目標達成する以外にはない、と、その時決心した。


その上で、この際「率先垂範」し、「実績で示す」事に心を決めたのである。
その結果か、一時は困難と思われていた期末目標も、部下の奮迅の働きで「目標達成」確実となった。


確か、決算日、3日―4日前の9月末の深夜だったと思う、妻に向き合い「決算目標も達成できる」ついては「これを機会に銀行を辞める」と告げた。



(写真は金沢・兼六園の「根上りの松」)