人生の岐路

okamakoto2006-02-10



「銀行を辞める」と、言い出した途端、妻の顔色が「さっと」変り、暫くは絶句していた。妻とすれば言葉も出なかったに違いない。


あの当時、世間的には、銀行は最も安定した職業とされていた、それを抛(ほう)られては、家族はたまらない、これからの「家族の生活」は一体どうしてくれる、の思いだったのだろう。


当夜は結局、二人での夜明けまでの会話となってしまった、隣室では二人の子供達が何も知らないまま眠り込んでいた。


当時、上の長女が世田谷区立中学2年生、下の長男は卒業を前にした同じく区立小学校6年生であった。二人共に東京へ転校して来て未だ2年足らずであった。


妻には、「自分は今まで懸命にやってきた積りだ、然し、今はすっかり自分の生き方に疑問を感じてしまった」


「こんな心境になったのは、20年来初めての事だ」「然し、一旦、このような疑問を持ってしまったら、この先、自分の人生が中途半端なものになりそうだし、このままではきっと自分は駄目になる。」


「ついては、この際、自分の人生をもう一度やり直してみたい、人生は、二度とはないように思うのだ」「我が儘だが、判ってくれ」と。


最後は妻も、一旦言い出したら退かない自分の性格を知り抜いていたのだろう、黙りこんでしまった。朝方になってようやく、最後は「貴方に付いて行きます」、と言ってくれた。


勿論、それは35年も経った今から思い出してみても、決して賛成したのではなく、「仕方がない」、と「諦め」てくれたのに違いない、そのことは自分にも痛いほど判っていた。