「退職時」


実は銀行の退職金は、当時の金ではあるが60万円台だった、勤続年数が19年8ヶ月で20年には僅かだが4ヶ月足りない。


20年以上になるとぐんと多くなる退職金制度であり、且つ「自己都合退職者」には50%減額規定もあって20年を越えれば適用外となる、更に「年金受給資格もある」、その事を本部の方からも指摘されたのだが止むを得ないと思った。


何よりもこたえたのはクレジット・カードの使用が止められた事だった、短期の金のやり繰りにはカード利用を考えていたからだ。引越後、直ぐに新住居宛にJCBから通知が来た。


「貴方は今般職業上重要な変更があった、就いてはカード使用を返上して下さい」だった。後で聞くと支店長指示でカード会社へ連絡が入ったのだと言う。


そう言えば勤務最終日に机の中を整理をしていたら、庶務の女性から「お客の名刺、及び未使用の自身の名刺を置いていくように」と言われ、傷ついた事があった。


その時彼女が小さい声で「支店長命令なのよ」と、申し訳なさそうに耳元で囁いていた。然し、それらの事は、その後の自分にとって反って「バネ」になったと考えている。


付言しておくと、自分の後に赴任して来たH君は6ヶ月もしないうちに、矢張り辞めて行ってしまったと言う、「精神的に参った」のが原因と聞いた。


勿論、先刻の「占い」を信じている訳ではないが、「占い師」が言い当てたように、自分、及び家族を巻き添えにして、その後は実に波乱に満ちたものとなった。



(写真は金沢・兼六園、「時雨亭」座敷床の「平常心」の掛軸)