「記念の時計」


さて、不在中に銀座にお出で頂いた折のお礼も兼ねて銀行支店に早速KBさんを訪ねた時だ、「まあ、場所も良いじゃーないか」と、一応のお褒めもあった。


ややあって「然し山登りでも、頂上を目指す時は良いが、降りるのが難しいと言う」、「先日行っていた時に、子供さんは家に置いていると聞いたし、奥さんがポツリ、と、実に心細さそうだったぞ」。


「実は、君の事はずーと気にしていた、前任の店で、ある会社の社長から、東京の責任者の相談を受けているのだが、君なら適任だと思っているのだが、どうだろう」と。


その会社なら自分も名前だけは聞いた事もある、然し、「折角のご好意ですが、何とか今の道でやって行きたいと思っています」と、頭を下げた。


その後、KBさんは銀行の専務として、更には銀行関連会社の社長に就かれたのだが時折お伺いしては、「兄貴」のように教えを乞うて来た。


時折に「奥さん元気?」と聞かれる、決まって「あの時の奥さんの心細げな顔が忘れなくてねー」、と仰るのである。


贈って頂いた時計は今も修理に出しながらも、我が家で大事に使わせて頂いている。



(東京の「梅」開花)