調和ある交通体系を


先般ヨーロッパを視察した折、幾つかの国の政策は実に示唆的であった。西ドイツの各都市では郊外の鉄道駅やバスの出発地点に公共マイカー駐車場を整備し、そこで公共輸送機関に乗り換える「パークアンドライドシステム」を徹底させていた。


ミユンヘンでは、市内の建物には一切駐車場を設置させない政策までとっていた、市当局者は「市内で駐車場を認めれば車が集中し、混雑や渋滞が加速するだけだ」と語った。


スイスでは、数軒の集落ごとにバス停留所を整備し、バス路線網を整備して、何れは車の総量規制する方向に進める、としていた。近年、アメリカで、鉄道などの役割を再度見直す機運が強まっている事も象徴的である。


我国で近年マイカーが急増している背景には「真面目に働いてもささやかな我が家さえも持てない」と言う「土地無策」「産業優先」的社会的要因も大きいと思う。


このような社会的歪みにも充分な目配りして、未来を見据えた総合的見地に立った調和ある国づくりの政策こそ必要なのではないだろうか。


今回の警察庁の違法車取締り強化は、車社会の現況に警告の一石を投じたものとして受け止めたい。


今こそ公共交通機関を重視した総合的交通体系へ転換し、我々自身も「車づけ」の惰性から脱する方向にコンセンサス作りをする時期ではないだろうか。


   (平成2年5月28日、朝日新聞「論壇」、一部加除した.写真は「車社会」の一風景)