「隣の芝生は青い」

okamakoto2006-11-05



「霜月」に入り朝夕急に寒さも加わったように思う、日の経つのは速く、今年も余す所2ヶ月を切り、早くも来年正月の年賀状の売り出しも始まり、つとに慌しさを感じる。


寒くなると朝の散歩も途切れがちになる、時折の散歩の際に東京湾岸沿いの運河の奥から、朝まだきしじまの中を湖面の微風に乗ってかすかにオカリナの音色が聞こえてくると正直、ホッとする。


奏でられる曲目はレバートリーも広く、時には「ローレライ」であったり、「アベマリア」であったり、谷村新司の「群青」、中田喜直の「雪の降る町を」だったりする。


その音色に惹かれ、早朝の散歩の人々は一様に心和まされる、勿論自分もその一人だ、小さな小鳥のような可愛い楽器で巧みに音色を出され練習されているのは朝の散歩で知り合ったNさんである。


湖面の一隅でオカリナを器用に吹かれる姿や、几帳面に背筋を伸ばして真っ直ぐ散歩される姿からは、とても大正お生れで、航空戦で重傷を負い奇跡的生還を遂げられた方とは想像もできない。


その柔和な人柄に誰しも引き込まれてしまうNさんだが、最近新築の25―26階建てのマンションへ引越され由、前のマンションも最上階とお伺いしていたので、今回も多分高層に居を構えられたと思っていたのだが、「いや、下の方ですよ」と仰る。


「高層からの眺めは確かに素晴らしいですよ、然し感動を覚えるのは精々が二・三日の事ですよ、後は所詮、外の眺めは同じです」、だった。


マンションが「億ション」になり、最近では建築基準法が大幅緩和されて40―50階の超高層マンションも出現し、 20億、30億円もする「二桁億ション」も珍しくなくなった。


ヒルズ族」といわれる若者達が高所に住み、下界を見下ろし睥睨するのが近年の流行のようだが、日々の生活というものはNさんが仰るようにもっと現実的な事のように思える。